前回までの内容で「シンセとは何であるか?」「アナログとデジタルの違い」「シンセの種類」「モジュラーシンセとは?」といった内容をご紹介しました。この講座は、大事な事は形を変えながら繰り返しお伝えするので、躍起になって詰め込むように読まなくても大丈夫です。リラックスしてご覧ください。
モジュラーシンセにも、アナログとデジタル各々が存在します。これは「ハードウェア」(アナログ)とソフトウェア(デジタル)と言った方が正確かもしれません。
このサイトでご紹介しているような、ケーブルの大量につながれたハードウェアのモジュラーシンセ。あのケーブルには、大きく分けると「音声信号」と「コントロール信号」の2種類が通っています。各モジュールをケーブルでつないで音声信号を流し、また別のケーブルで各々のモジュールでの加工をコントロールするための信号を流す。どんなに複雑そうに見えるセッティングでも、基本的にこれらの積み重ねで出来ています。
当然の事ですが、ハードウェアのモジュラーでは、行いたい処理の数だけモジュールやケーブルが必要になります。購入コストや消費電力、設置場所も必要ですし、故障の対応や、日頃のメンテナンスも大きな手間となります。
一方、現在はパソコン上にモジュラーシンセ同様の音声処理環境を構築できるソフトがいくつも存在します。ソフト上では、CPUやDSPの処理能力が許す限り、モジュールやケーブルを何個でも追加できるのが普通です。例えばパソコン+ソフトで10万円位のシステムでも、数百万円かけたモジュラーシステムと内容的には同じ事を軽々と出来てしまうでしょう。道具としての効率性で言えば、ソフトウェアが圧倒的に勝っています。
それでは、何故苦労してアナログモジュラーを使うのか?いくつか理由はありますが、最大の魅力は「自由度の高さ」にあります。
例えばA社とB社それぞれのソフトウェアモジュラーがあった時、可能なように仕組みを作らない限り、両者の間を接続することはほとんど出来ません。また出力される音も、ソフトが動作しているシステムの仕様上限を上回ることはありません。
一方アナログのモジュラーは、音声信号・コントロール信号ともにただの電流(自然界の現象)ですので、極端に言えば「どの機械も、どうとでもつながる」のです。例えば「電圧が1ボルト上がると音程が1オクターブ上がる」といったような、先行製品に倣ったお約束に従えばきっちり連動しますし、想定されていない接続を行った場合でも(回路を壊してしまうような無茶でない限り)何らかの結果(面白い場合も、破綻している場合も)が得られます。
こうした自由度により、大手メーカーの製品もガレージメーカーや自作のモジュールも同じレベルでシステムに導入でき、組み合わせや使い方、使う場所の環境にまで影響を受けて千差万別の結果が出る、このバラエティがアナログモジュラーの魅力です。
実際には、ソフトウェアモジュラーのバーチャルな世界と、アナログモジュラーを接続する方法がいくつもありますので、ここでも「良い所どり」で好みや用途によって使い分ければ良いのです。
私はハードウェアの大規模なモジュラーシステムがまだ購入できなかった頃、ソフトで様々な試みを行いノウハウを積んでいたので、アナログモジュラーを導入したその日からすぐに様々な音作りが行えました。両者のノウハウはクロスオーバーしていますし、アナログ(ハード)ならでは、デジタル(ソフト)ならではの面白さがあります。「初心者はソフトがおススメ」というわけではありませんが、モジュラーに興味のある方は今すぐに、まずソフトに触れてみるのも良いでしょう。
(解説:大須賀淳)