シンセサイザー」という言葉を聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?「色々な楽器の音が出る電子キーボード」?それは半分正解であり、また半分正確ではありません。

シンセサイズ」(Synthesize)とは「合成する」の意。シンセサイザーは、特定の音色に縛られない「様々な音を合成できる」装置です。様々な音の出るキーボードは、まさにこうしたイメージに当てはまります。

ただし現在販売されている、リアルな楽器音の出るキーボードは、ピアノやドラムといった生楽器の音をサンプリング(録音)して発音させているものが大半です。楽器の音そのものなので当然「リアル」ではあるのですが、元素材の生楽器の音に縛られ、それ以上に発展させにくいという側面もあります。

20世紀前半から1980年代中盤くらいまでの(シンセサイザーを含む)電子楽器は、電子的に合成した音声を様々に加工して最終的なサウンドを作るものがほとんどでした。この手法は生楽器そのものスバリのサウンドを再現するのは難しいものの、かつてこの世に存在しなかった音も含め、使い手の想像力によってありとあらゆるサウンドを生み出すことができます。

よって、純粋に「シンセサイズ」と呼べるのは、サンプリングを使用せずに音を合成する手法というのが一般的となっています。そのための装置が「シンセサイザー」というわけです。

サンプリングとシンセサイズは「良し・悪し」や「新しい・古い」で分けるものではなく、全く別の手法なのです。映像で言えば、サンプリングは実写の加工や写真のコラージュ、シンセサイズはアニメーションやイラスト・絵画と言う事ができるでしょう。

サンプリングを用いた機器が廉価に出まわるようになった1980年代後半〜1990年代初頭頃は、「“リアル”な楽器音が出る」というインパクトもあって、突っ込んだ音作りのできるシンセサイザーが下火となった事もありました(シンセサイザーによって生み出された「定番サウンド」もサンプリングされて音色ライブラリに追加されました)。

しかし、自分自身で突っ込んだ音作りのできるツールは(むしろ、サンプリングの精度が増せば増すほど)どんどん再評価が進み、現在では世界中でかつて無いほど多くの人々がシンセサイザーによる音作りを楽しむようになっています。

このサイトでフォーカスしている「モジュラーシンセサイザー」は、「音を来る道具“シンセサイザー”」の最も基本形であり、そしてある方向での究極形でもあります(モジュラーの詳細については後の回で説明します)。是非、様々な形でその魅力に触れてほしいと願わずにはいられません。
(解説:大須賀淳